- ヒヤリハットとはよく聞くが、何を意味するのだろうか?
- どうすればヒヤリハットと重大な事故を防げるのか?
- 報告書はどのように記入するべきか?
- ヒヤリハットを防いで事故のない経営を実現したい
上記のような疑問や課題を感じている担当者・経営者は多いでしょう。
企業にとって重大な事故は大きなリスクで、同時にその前兆とも言えるヒヤリハットは一つでも減らしたいところです。
そこで今回では以下について解説します。
- ヒヤリハットの定義と発生する理由
- 実際に発生した場合の報告書の取り扱い
- 具体的なヒヤリハットの事例
本記事を読めばヒヤリハットの意味合いと報告書によるマネジメントが実現できます。
そもそもヒヤリハットとは?
まずはヒヤリハットとは何を意味するのか確認しておきましょう。そのあとで発生する原因や重要視される背景について解説します。
ヒヤリハット=一歩間違えれば事故になった事象
ヒヤリハットとは、大事故や重大な災害に発展しないまでも、一歩間違えればそれが現実に起こっていたような事象のこと。たとえば重い荷物が落下し作業員に直撃しかけて「ヒヤリ」とする、「ハッ」とするといったことが該当します。
ヒヤリハットはハインリッヒの法則に基づいてその存在が証明されているものです。この法則は労働災害の研究者・ハーバート・W・ハインリッヒが発見したもので、それは概ね以下2点を主張しています。
- 大事故や災害が1件起こる背景には、29件の小規模な事故がある
- さらに29件の小規模な事故の背景に300件のヒヤリハットがある
この法則からわかることは、ヒヤリハットを見逃さず改善すれば最終的には大事故や災害を未然に防げるということ。つまり些細なミスや小さな危険を甘く見ず、適切に対処することが重要です。
発生する原因は4つ考えられる
ヒヤリハットが発生する原因は4つの面に分けられます。
- 精神面:不注意や焦り
- 教育面:指示出しのミス
- 環境面:整理やルール整備の不足
- モラル面:情報管理、法律違反の常態化
もっとも身近なのは精神面を原因としたヒヤリハット。
疲労の蓄積や期限が迫るプレッシャー、あるいは日頃のストレスによって、不注意や焦りは誘発されます。そうすると本人も「なぜこんなことをしたのか」と驚いてしまうようなヒヤリハットが起こるもの。
教育面が原因でヒヤリハットが起こることもあるでしょう。スタッフが上長の指示を勘違いしていたり、そもそも聞いていなかったりすると想定外の事態が起こります。
その結果危険な行為に至り、ヒヤリハットが発生します。
環境面を原因としたヒヤリハットにも注意が必要でしょう。現場が整理整頓がされていなかったり、本来あるはずの部品がなかったりすると、ヒヤリハットは起こりやすくなります。
最後はモラル面で、たとえば個人情報の取り扱いにおける意識低下などが挙げられるでしょう。2022年の尼崎市USB紛失事故のように、顧客情報が記録されたUSBメモリを持ったまま飲食店へ入るなどの行為はそれだけで重大なヒヤリハットです。
ヒヤリハットが重要視される理由は事故を防ぐため
ヒヤリハットが重要視される理由はひとえに重大な事故を防ぐためです。ハインリッヒの法則が有効である以上、ヒヤリハットがなくならない限り、大規模な問題は起こりうるもの。
もし軽微なミスや危険を見過ごしていたら、当然ながら重大な事故が起こります。しかしヒヤリハットの発生件数がおさえられれば、少なくとも会社を揺るがすようなトラブルの懸念は確実に軽減させることが可能です。
ただし注意してほしい点は、ヒヤリハットが1件でもある限りは重大な事故に発展する可能性は残っているということ。しかしそれを0件に抑えることは難しいミッションです。
すなわちヒヤリハットを減らす努力は必要でありつつ、しかし重大な事故が起こった場合の事後対策はどうしても必要となるでしょう。
ヒヤリハットと事故防止には報告書の提出が必要
ヒヤリハットとその先にある重大な事故を防ぐには、報告書の提出が対策の基本となります。報告書の目的は現場で起きる些細な危険やミスを把握すること。
これらを情報として集めることで、今後の対応や改善策を考え、ヒヤリハットや大事故を防ぐことが重要です。
ここではヒヤリハットの報告書について、以下の基本をおさえておきましょう。
- 必要となる項目と報告書フォーマット
- 5W1Hが基本の要素
- 客観的な視点で評価する
- 難しい言葉を使わず読み手が理解できるようにする
それぞれについて詳しく解説しますので、参考にしてください。
基本のフォーマットと項目
ヒヤリハットにおける報告書の基本項目は以下のとおりです。
- 記入している本人の基本的な情報(氏名・部署・担当業務・職位など)
- ヒヤリハットが起きた日時や場所
- ヒヤリハットが発生するまでの経緯
- 仮に大事故となっていたら、どのような被害があったのか
- ヒヤリハットが発生した原因
- 今回のヒヤリハットに対して取られたアクション
- 考えられる防止策
上記のような項目により、現場で起こったことをできるだけ細かく報告をする必要があります。
ちなみに上記が含まれた良質なフォーマットは、テンプレート祭りや石井マークなどで公開されています。必要があればダウンロードして使用するとよいでしょう。
ただしヒヤリハット報告書の内容は業界業種によってやや異なるものです。フォーマットをそのまま使うのではなく、ある程度カスタマイズする必要があります。
5W1Hが基本の要素になる
ヒヤリハットで大切なのは5W1Hを意識すること。つまり以下のような情報を適切に記入する、させる必要があります。
- When:いつ?
- Where:どこで?
- Who:誰が?
- Why:なぜ
- What:何があったのか?
- How:どう対処するのか
ここまで詳細に報告があって、ようやくヒヤリハットの対策が見えてきます。上記したフォーマットを用意しても、記入者に5W1Hを網羅する意識が足りていなければ適切に報告されません。
ヒヤリハットの報告書を運用するには5W1Hに基づいた記載を徹底させましょう。
客観的な視点で評価する
ヒヤリハットを報告書にまとめる際には、とにかく客観的であることが重要です。報告の際にありがちなのが、記入者本人に何らかのバイアスがかかっていて主観的な報告が上がること。
たとえば部下を守りたい一心で「少し落ち度が目立たないように記入しよう」というケースが考えられます。
しかし主観的な報告が上がってきては、ヒヤリハットが何なのか正確に把握できません。つまり現実に即した適切な対応が考案できなくなります。
あくまでも客観的に、あるがままの事実を報告させるようにしましょう。
難しい言葉を使わず読み手が理解できるようにする
ヒヤリハットの報告書を記入する際は、難しい言葉が使用せず、読み手が理解しやすい文章であることが重要です。難解な表現を使えば使うほど、実際に起こった事象がぼやけてしまいます。
なるべくわかりやすい表現で、事態を理解しやすいように記入しましょう。
またヒヤリハットの報告書はキャリアの浅い従業員が閲覧したり、別部署でシェアされることもあります。その点を踏まえれば専門知識がない人間でも判読できるように記入しなければいけません。
ヒヤリハットの典型的な事例を業界別に解説
ヒヤリハットとはあらゆる業界で起こり得るものですが、典型的な事例としては以下が挙げられます。
- 建築業界:宙吊りした鉄骨の落下
- 介護施設:利用者の臥床介助における転倒
- 保育園:園児による知育玩具の誤嚥
それぞれについて詳しく解説しますので、参考にしてください。
建築業界:宙吊りした鉄骨の落下
クレーンに吊るした荷物の玉掛けが甘く、高度から鉄骨が落下。
幸い直下には人がいなかったが、仮にいたとすれば重傷ないし死亡が予想された。
介護施設:利用者の臥床介助における転倒
車椅子で移動を介助する中、旋回の際にタイヤが溝に引っかかる。
要介護者は転倒しかけたが、介護者が体で受け止めてことなきを得た。
しかし転倒していた場合は頭部負傷や骨折などのリスクがあったと推測される。
保育園:園児が知育玩具を誤嚥しかける
保育士が目を離した瞬間に、園児が知育玩具を口に含む。気づいた保育士がすぐに駆け寄り、口から取り出した。
仮に知育玩具を誤嚥した場合には、窒息事故に発展することが予測される。また窒息により、最悪の場合は死亡もありえた。
ヒヤリハットの報告書提出を業務として定着させる方法
ヒヤリハットの報告書提出を適切に実行させるには、マネジメント側によるある程度の工夫が必要です。
社員や従業員からして「事故に繋がる不手際があったこと」を報告する作業には大きな抵抗があります。その心理的な負荷を避けるには、以下のように配慮する必要があるでしょう。
- 報告書の提出につき明確なインセンティブを提示する
- 上司が率先して報告する
- 報告書の作成と提出は勤務時間内の正規業務として取り扱う
- フォーマットを簡単にして記入しやすくする
それぞれについて詳しく解説しますので、参考にしてください。
報告書の提出につき明確なインセンティブを提示する
報告書の提出を定着させるには明確なインセンティブを設定することが有効。
これが大事故を防止するためのヒントだとすれば、本来この報告は価値の高いものです。だからこそインセンティブがあっても何ら不自然な話ではないでしょう。
もちろん報告書一通につき何円、と値段をつけるわけではありません。しかし報告した事実に対して感謝を伝えたり、状況によっては賞賛したり、無形のインセンティブは用意できます。
上司が率先して報告する
ヒヤリハットの報告書を業務として定着させるには、上司が率先して報告するのが有効です。これで記入と提出に対する抵抗をある程度緩和できるでしょう。
やはりヒヤリハットの報告書を提出することは「ミスを申告する作業」として捉えられがち。しかし上司ですら記入しているのなら、「部下である自身が提出しているのも、おかしいことではない」と考えられるでしょう。
また多くの業務がそうであるように、部下は上司のやっていることを真似する傾向があります。すなわち積極的に提出する姿勢を見せていれば、おのずと報告書の提出は業務として確立されるでしょう。
報告書の作成と提出は勤務時間内の正規業務として取り扱う
ヒヤリハットの報告書作成と提出は勤務時間内でおこないましょう。つまり正規業務として扱う必要があります。
これは報告の精度や品質を維持するためです。なぜかヒヤリハットの報告書については勤務時間外に書くように指導されるケースが散見されます。しかし本来であれば勤務時間内にしっかりと時間を取るべき重要な作業です。
給与が発生しない時間に記入しても、その精度や品質は高まりません。報告書の作成は勤務時間内に、正規業務として実施しましょう。
フォーマットを簡単にして記入しやすくする
ヒヤリハットの報告書フォーマットを記入しやすくすることも重要です。やはり記入の作業が面倒だと、報告をすることが億劫になります。
仮に報告書を書いたとしても、端折ったりいい加減に書いたりして、ヒヤリハットの防止策の特定に結びつかないケースもあるでしょう。
しかしフォーマットが記入しやすいものであれば、記入者の負担を下げることが可能です。
前項でも触れたように報告書では5W1Hをはじめとした詳細な記入が求められます。ある程度記入に時間がかかるのは避けられないことですが、だからこそフォーマットを簡単にして記入しやすい工夫は重要だと言えるでしょう。
まとめ:ヒヤリハットの報告は部課に基づき適切に管理しよう
本記事ではヒヤリハットについて詳しく解説しました。最後に重要なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- ヒヤリハットとは一歩間違えれば大事故や重大な災害になったであろう事象のこと
- 精神・教育・環境・モラルの不全により、ヒヤリハットは引き起こされる
- ヒヤリハットの存在が大事故や重大な災害に繋がる事実は、ハインリッヒの法則により立証されている
- ヒヤリハットをマネジメントするには報告書の作成が必要
- フォーマットを活用し、5W1Hまで詳しく報告することが、対策を立てる上で重要
- ヒヤリハットの報告書提出を定着させるにはマネジメント側での工夫が必要
企業にとってはあらゆる大事故や重大な災害は、何としても避けたいもの。このリスクを解消する一つの手段は、日常の業務に潜む小さな危険やミス、つまりヒヤリハットを解消することです。
ぜひヒヤリハットがどこにあるか報告書でキャッチアップし、事故や災害リスクの小さい経営を目指しましょう。